2015年10月5日月曜日

焦らずジックリ運んだ戸崎の好騎乗

スプリンターズSの回顧だね。

ペースが速くなると戸崎は思ったのか、ストレイトガールはテンに少し気合を入れただけで、道中はジックリ構えて中団から。蓋をあけてみれば、ひとつ前の1000万条件の千二(10R・勝浦特別)よりも、前半の3ハロンがコンマ2秒遅いペース。道中で引っ掛かっていた馬もいたほどなのに、ピッタリと折り合ってスムーズに流れに乗れていたね。3~4コーナーでもムキにならずに自然とサクラゴスペルの後ろに取り付いていたように、戸崎が本当にうまく乗ったと思うよ。乗り役としては、ペースがペースだけに“前に行った馬はそう簡単に止まるはずはない”と思って早めに動きたくなるところ。それでも焦らずジックリ運んだのは、最後の直線で「少しでもスペースが開けば抜け出せる」っていう自信があったんじゃないかな。戸崎がうまく乗っていたにせよ、直線で他馬を弾き飛ばしてでも抜け出したあたりは能力の高さで、伊達にGIを勝っていないよね。まぁ、10Rの1000万よりも勝ち時計がコンマ1秒遅かったとはいえ、道中のペースがペースだし、エアレーション作業の効果で今の中山は時計が出にくい馬場状態だから、その辺はあまり気にしなくてもいいだろう。暮れの香港スプリントが引退レースになるみたいだけど、そこでも頑張ってくれるんじゃないかな。

サクラゴスペルは、馬体が絞れて休み明けでもキッチリ仕上がっていたし、調教の動きからして体調も良かったんじゃないかな。カーッとしやすい気性の馬だけに、千二だと競馬もしやすいんだろう。実戦でもペースがペースだけに行きたがるところはあったけど、ノリ(横山典騎手)がうまくなだめて我慢できている。ストレイトガールと同じように、ベルカントの後ろあたりでジッとできていたからね。この馬とすれば最高の競馬ができていただけに、今回は勝った馬を素直に褒めるしかないだろう。GIでこれだけ走れるあたり年齢的な衰えは感じられないし、いつも今回のような競馬ができれば安定すると思うけど、なにせ気難しいところがあってアテにしづらいタイプだから…。

ウキヨノカゼは、いつも通り後ろからジックリ行っていたね。内枠を引いただけに、四位とすればある程度の位置に付けたかったはず。でも、テンに脚を使えば終いが甘くなると思って、この馬のリズムを守って走らせることに徹したんだろう。勝負所で外々を回る羽目になったけど、後ろから行けばロスが生じるのは仕方のないことで、この馬の競馬はできたんじゃないかな。最後はいい脚で突っ込んで来ていたから、前走(キーンランドC1着)がフロックではないことは示せたと思うよ。ただ、自分で競馬を作れないのはやっぱりネックで、これ以上となると展開の助けが欲しいところだね。

ミッキーアイルはスンナリ先行できたんだけど、ペースが落ち着いたところで掛かったのが痛かったね。スタートをソッと出してテンから馬のリズムを守ることに専念するか、掛かったら掛かったで、馬の気分に逆らわずに手綱を放してしまうか。乗り方ひとつだと思うけど、いくらペースが落ち着いたとはいえ、千二のペースでムキになるようだとキツいよなぁ。あれだけリズムの悪い走りになってもバタバタにならないあたり、まともなら今回も勝負になっていたはずだけど…。あとは乗り役がいかに御せるかだろうね。

ウリウリは中団よりも後ろからジックリ行っていたんだけど、終始外々を回らされたのが痛かった。それほど長く脚を使える馬ではないだけに、余計に厳しい競馬になってしまったよ。ここ2戦は内を通ってロスなく運びつつ、一箇所だけ脚を使う形で結果を出してきたとはいえ、毎回毎回同じ競馬ができるほど甘くはないからね。いつも後ろの方からジックリ行く馬だから、枠順はあまり関係ない。道中のどこかで内へ潜り込んでロスを抑えて、いかに脚を溜められるかがカギになるんじゃないかな。

リッチタペストリーは、ストレイトガールと同じような位置でジッとできていたし、直線でも一旦は抜け出すかの伸び。最後はもうひと押しが利かなかったけど、いい競馬ができていたと思うよ。もっと時計が掛かる馬場なら良さが出そうだから、地元の香港に戻ればチャンスがあるんじゃないかな。

レッドオーヴァルは中団からになったんだけど、3~4コーナーでスムーズに上がって行けている。直線では伸びそうな雰囲気だったのに、追ってからがだらしなかったね。今回はペースが落ち着いたから追走が楽になっただけで、本質的に千二は忙しいのかも。もう少し長い距離、千四あたりで脚を溜める競馬の方がいいかもしれないね。

ハクサンムーンは、スタートダッシュはイマイチだったんだけど、アクティブミノルがすぐに控えてくれたぶん、スンナリとハナを切れている。1000万よりも遅いペースに落とせても粘れないんだから、やっぱり本調子にないんだろうなぁ。調教でも反応や伸びが全くなかったから…。

ベルカントはパドックでチャカチャカしていた上に、返し馬でも一生懸命になって走り過ぎ。その時点でキツいと思ったぐらいで、案の定、引っ掛かって終わってしまったね。さすがの(武)豊もなだめるのに苦労していたほどだし、ああなったらどんな馬だって力を出せないよ。調教の動きからしてデキは良かっただけに、残念な競馬になってしまったね。


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