最後に、昨日のGI・天皇賞(秋)。
モーリスは、ハミを噛んでいたのは最初のコーナーまで。それも好位を取りにスタートから出して行ったぶんで、すぐ前を壁に作ってムーアがうまくなだめていたね。向正面に入ってからもムキになっていたら、終いにあの脚は使えなかったんじゃないかな。直線に向いてすぐの追い出しで、抜け出すタイミングも早かったぐらい。切れ味という点ではちょっと物足りなくて、力でねじ伏せる競馬をしてこその馬だけに、あえて早目にスパートしたんだろう。確かに馬も強いけど、何度も乗って手の内に入れているムーアが本当にうまく乗っていたと思うよ。続けて2000mを使ったことで、馬もこの距離のペース、競馬の流れに慣れるはず。2000mの香港Cに向かったとしても期待できるんじゃないかな。
リアルスティールは、モーリスの後ろ、中団あたりでジックリ構えて直線勝負。ペースは遅かっただけにデムーロは早目に動きたかっただろうけど、外枠から攻めの競馬をしたら最後は苦しくなりかねない。予定していた毎日王冠をパスして、安田記念以来の休み明け。調教で物足りない動きで状態面にも不安があっただけに、なおさらデムーロは無理をしなかったんだろう。厳しいローテを踏まえたうえで、デムーロがうまく乗っていたと思うなぁ。1箇所だけ脚を使う競馬だったから、馬にダメージは残らないはず。このひと叩きで状態面も上向くだろうし、次はもっと走れるでしょう。
ステファノスは、リアルスティールよりも後ろからになったんだけど、リアルよりも外枠だったから余計に前に行きづらかっただろうね。中途半端に位置を取りに行こうとすれば、内へ潜り込めず終始外々を回らされてしまうかも。あの位置取りになったのは仕方のないところで、不利な外枠を引いたなりに最善の競馬ができていたと思うけどな。川田がうまく乗っていたにせよ、調教の動きは良く見えなかっただけに、これだけ走れれば上等だろう。調教の動きが良くなったうえで、いい枠を引いて、いい位置取りで競馬ができれば。条件さえ揃えばGIでももっとやれそうな気がするよ。
アンビシャスは、スタートで出遅れて後ろから。折り合いの難しい馬だけに、押して位置を取りに行くわけにはいかないしね。ただ、後ろからノリ(横山典騎手)がそっと乗ってもハミを噛んで抑えるのに苦労していたほどだから、それだけペースが遅かったということ。この馬には流れが合わなかったということでしょう。ペースが流れさえすれば2000mでも問題はなくても、最近は極端なスローペースになりがちで、もっと短い距離を使った方が競馬がしやすくなると思うけど…。この辺の距離を使っているうちは、折り合いに苦労するケースが増えるんじゃないかな。
ルージュバックは、中団よりも後ろからになったんだけど、ペースがペースだけに直線に向いても馬群がバラけなかったのが痛かった。横にリアルスティールがいたから外へ出せなくて、前も詰まって動くに動けなくなってしまったね。これも競馬の流れのなかで起こることで、今回は運がなかったとしか言いようがないでしょう。ただ、パドックではマイナス4キロという数字以上に細く見えて、ギリギリの体つきをしていたからなぁ。牝馬とあって繊細なところがありそうだから、もっと間隔を空けて使った方がいいんじゃないかな。
エイシンヒカリは、スタートの2完歩目で躓いたのが痛かった。バランスを崩しながらハナを取りに行ったぶん、この馬本来のスピードが感じられなかったし、道中も掛かるぐらいの行きっぷりじゃなかったよね。1コーナーまでは逆手前で走っていたし。スタートでミスした時点で馬が機嫌を損ねて、走る気持ちがなくなっちゃったんじゃないかな。速いぐらいのペースで逃げてこその馬だけど、(武)豊がペースを上げたくても上げられなかったんだろう。無理にペースを上げていたら、最後はもっとバタバタになっていたと思うよ。まぁ、気分良く走るととんでもなく強い競馬をして、少しでもヘソを曲げるとだらしない負け方をする馬。本当に難しい馬だよね…。
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